2009.04.10 Fri
S4E-005
Charlie Haden & Pat Metheny
Beyond the Missouri Sky
Verve
最近パット・メセニーリスナーが非常に増えていると聞く。
元々大人気の彼だけど、今言ってるのは新しいファン、それも20代30代の人たちが増えているらしい。
その理由もわからなくもない。
パット・メセニーの音楽には何故か故郷に帰ったかのような、ほっとする、
今で言うところの癒しを感じ取ることができるからだ。
不況だなんだとあくせく働き、溢れる情報に踊らされている現代にはもってこいなのかも。
このアルバムは初期の頃から一緒にやってた旧友チャーリー・ヘイデンとタッグを組み、
全くもって全ての楽器を二人で演奏して作りあげたアルバム。
ここには都会の荒々しさや喧騒もなく、ただただゆったりと流れる時間だけが存在する。
使われている楽器もアコースティックなものばかりで、電気的な楽器も柔らかなシンセパッドみたいな音だけ。
シンセギターバリバリの音やテクニカルな要素丸出しのアレンジを期待する人はパスすべきですが。
音数も少なく、空間が溢れている。
なのにこの圧倒的な素晴らしさは何なんだろう。
音楽には感動が含まれている。
感動と一言では言い表せないほどの素晴らしさが。
行ったこともない地へ連れて行ってくれたり、感じたこともないはずの感情を受け止めてみたり、
懐かしいあの時代へとタイムスリップさせてくれたり、、、。
こんなことを与えてくれる、体験させてくれるミュージシャンや楽曲は特に賞賛すべきだ。
ジム・ウェッブのカバー「The Moon is a Harsh Mistress」はオリジナルのアダルトポップなアレンジではなく、大好きなラドカ・トネフのアレンジメントを下敷きにした、唄メロパートをパットのギターで演奏する、この上ないほど切なく美しいバージョン。
ニュー・シネマ・パラダイスのカバーでさえもより懐かしく切なく、最後にはチャーリー・ヘイデンの息子作の美しくも懐かしい「Spiritual」で幕を閉じる。
この曲の素晴らしさと言ったら!
酸いも甘いも体験した男達による、残りの人生へ踏み出す為の途中下車の旅。
行ったこともないアメリカの大地が見えてきます。
余談ですが、マスタリングは御大テッド・ジェンセン。
この人が本気でマスタリングしたものはもう極上。
恐らくまだプロ・トゥールス以前のテープ録音だろうから、今のデジタルオンリーサウンドよりも温かくレンジも広く奥深い。
これを16ビットの音で聴かなければいけないのが残念だけど、CDオンリーなのでしょうがない。
しかしそこら辺のCDなどとは比べ物にならないぐらい良い音。
クリアーという意味での良い音ではなく、温かくぐっとくる良い音。
決してクリアーな音だけが良いと言っている訳ではなく、その音楽的趣向に合った音であれば問題ない。
ザラザラしてても、モコモコしてても、荒々しくても、打ち出しているサウンドに合っていれば良いのです。
音楽はリズム、コード、メロディ、そしてそのサウンドに合った音質。
全てが出揃ったときに始めて歴史的名盤となりうる。
その全てが揃っているアルバムです。